介護職を辞める理由 虐待しそうになる恐怖
今回は、私が介護の仕事をしていて「初めて暴力を振るいそうになって時の話」をしようと思います。
プライバシーの観点から名前や事例を少し変更しています。
また、「もう介護職を嫌いになった」私の主観、感情が強く半面されています。
ご理解よろしくお願いします。
〇条件
グループホームでの夜勤の話(1ユニットに1名夜勤者)
入居者A : 男性 不眠、暴力(+)声上げ(+)、立ち上がる=転ぶ、転倒と転落を繰り返している(車いすからもベッドからも)
他の入居者 :Bさん・起きると立つ、付き添い必須の歩行器使用。
Cさん・一度起きると寝ない。職員を追いかけ続け、他者の居室にまで入ってくる。
他にも、トイレ支援、おむつ交換が必要な方4名
驚くかもしれないが、センサーの類は一切なかった。Bさんのみ、体動センサー。
〇私が入居者に暴力を振るいそうになった話
まず、虐待について。
主に、暴力や身体拘束などの「身体的虐待」。お金を勝手に使う、使わせない「経済的虐待」。性的な行為を強要する、羞恥心に配慮しない対応をする「性的虐待」などがある。
その中でも、私たち介護士が苦しむのが「身体拘束」だと思う。
この身体拘束禁止の取り組みは、間違いなく介護士の首を絞めている。
転倒しないように車いすにベルトを着ける。ベッドから落ちないように柵で囲う。
こういった、入居者を護るための行為も、すぐに「虐待だ」と言われてしまうのが現状。事実、拘束しているのだから虐待だし、それをしなくてもいいように対策をとるのも介護士の仕事だろう。
たけど、「拘束しないように転倒転落を防ぐ」のには限度がある。
そして、その限度の中で、他の入居者を護りながら転倒転落を防ぐことは、本当に難しい。
今回の事例は「拘束をしないことを守り続けた結果」私が限界を迎えてしまったことによる、暴力未遂。
入居者Aさんは、日中は穏やかだが、夜に豹変する。
ほとんど一切寝ず、ベッドから起き上がり、臥床していただくと大声を上げて、時には職員を殴る。
寝ないのなら、と車いすで食堂に来ていただくと、やっぱり立ち上がる。そして落ちる。
落ちれば始末書だ。
たとえ、転倒リスクの高いBさんの対応をしていても、他の入居者のおむつを取り替えていても。転倒したら始末書。最悪家族に謝罪。
Aさんの転倒を防がなければならない。しかし、Bさんの転倒も防がなくてはならないし、他の方のおむつを濡れたまま放置するわけにもいかない。
Aさんだけ守ればいいのなら、他の方は朝まで尿でびっしょりでいい。Bさんも転んでいい。Cさんが全員の部屋を開け放って不法侵入しても放っておけばいい。
だけど、そういうわけにはいかない。
Bさんだって転んだら一大事。始末書も書く、大切にしてる家族に謝罪もする。骨折すれば救急車も呼ぶ。
Cさんが他の人の部屋に入ったら、その部屋の人は驚くだろう。不法侵入だし、相手のプライバシーの侵害にもなる。止めないといけない。
Bさんの手伝いをし、転ぶことなくベッドに戻ることができたとして、Aさんが転んだら意味がない。
Bさんのセンサーが鳴ったら、私はAさんに怒鳴られて殴られて、それでもベッドに横になっていただいて、全力で走ってBさんのトイレの手伝いをして、また走ってAさんの様子を見に行って、今度はBさんのまつトイレまで全速力で走って。
走って走って、殴られて怒鳴られて。明け方にはCさんが起きてくる。
おむつ交換をしている部屋にCさんが入ってくる。便塗れのティッシュを汗だくの私に押し付けてくる。下半身丸出しの方の部屋にいてもらうわけにもいかないから、廊下に出ていただけば「いじわる!!」と怒鳴られ、泣かれる。
そして、物音がしたら、下半身丸出しの人を放って、またAさんの部屋へ走っていく。後ろではもちろんCさんが鳴いている。何だったら、走ろうとする私の腕を掴んで、話してもらえばまた「ばか!!!」と。
これが月に5回。
本当に、本当にしんどかった。
日中はとても穏やかで、「昼Aさんはかわいい」なんて夢中の職員もいた。でも、「夜Aさんは怖い」と夜勤を減らした職員もいる。
結局、夜専の職員と私がほとんど夜勤を回すことになる。
そして、私は限界が来た。
やっぱりその日はAさんが寝なかった。
怒鳴られた、殴られた。それでも頑張って誰も怪我しないようにって、走って走って、ごめんねって言いながら無理矢理寝かせて。
臥床させようとした私を、Aさんは思いっきり殴った。
私も反射的に腕を振り上げて、ハッとした。
「いま、殴ろうとした」
この時のことを詳しくは覚えていない。毎日同じような繰り返しだったから。
でも、この時の恐怖心をずっと覚えている。
人を殴ろうとした。
認知症で、何もわからなくて、好きで夜通し起きているわけでもない。自分がどうして相手を殴るのか、なんで寝かせようとされているのか。朝も昼もわからない。
認知症で優しくしなくてはいけない相手を、私は殴ろうとした。
その恐怖を、反射的に人を殴ることができる人間だった、それに気が付いた時の恐怖を覚えている。
それ以来、Aさんの対応をするのが怖くなった私は、ベッドの下にAさんを下ろして対応するようになった。
今思えば間違ってなかったけど、その時は申し訳なく思っていて、誰にも言えず、朝には何事もなかったかのように車いすに座ってもらっていた。
これを機に、「自分は介護の仕事に向いていない」「また、今度こそ殴ってしまったらどうしよう」と思うようになり、介護職を辞めたいと考えた。
施設長へ退職の意思を伝え、最初の転職活動を始めることになる。
〇身体拘束
これは私がおこした事件ではないが、「介護職への嫌悪」の第一歩になった事案。
引き続きAさんの話だ。
私がAさんを床に寝かせるようになったころ、その事件は起きた。
正直、満を持してというか、「そうだよね、むしろ皆今まで頑張ったよね」という内容だ。
夜専の職員がAさんを車いすに拘束した、と話をきいた。
車いすに座らせ、腰と腕をタオルで固定していたのを、別ユニットの職員が発見したとのこと。
私の素直な感想は「見られるなんて災難だったな」「まあ、そうするよね。私は勇気がなかっただけ」である。
それぐらい、Aさんの対応は過酷だった。
幸い、夜専の職員は始末書で済んだ。
Aさんが原因の過酷な状況は、施設長も他の職員も理解していたからだ。
だが、法律はそれを許さない。
たとえ本人を護るため、他の入居者の対応をするためであっても、拘束は禁じられており、発見され訴えられれば裁判だってあり得る。
この時は施設内で処理された。夜専職員は私の後に退職したそうだが。
この事例をきっかけに、私の中で「介護士は守ってもらえない」という不安感は生まれてしまったわけである。
あれだけ必死に対応して、誰も怪我無く夜を過ごしたのに。
拘束してはいけない、転ばせてもいけない。骨折したら謝罪、拘束しても謝罪。
じゃあ、どうすればよかったんだろう。
そんなことを思いながら、私は退職した。
〇今だから思いつく対処法
まず、前の職場は職員の教育が不十分だった。一つのアクシデントに対して、上っ面の対策を立てるだけ。
それから、フォロー体制も悪かった。
実際、私もあれほどしんどい、辛いと言っていたのに、退職するまで気にかけてもらえていなかったのだ。
私が考える対応策
- 夜間Aさんが寝ない場合、別ユニットに応援を頼み、他入居者のパッド交換などを集中して行える時間を作ってもらう。
- 布団やマットレスを用意しAさんを床対応に統一(こまめな巡視を行う)。起き上がっても転落はしないため、怪我のリスクがなくなる。その分、他の方の対応に余裕ができる。
- ご家族へありのままの現状を報告し、転倒転落のリスクを承知していただく。そのうえで、実施する対応策を報告。必要であれば拘束に近い対応をすることも伝える。(拘束は禁止されていることも伝える)
一番は、施設全体に理解してもらうことが大切。
もし貸したら、自分のユニットは落ち着いてるから、と声をかけてもらえるかもしれない。見方がいる、頼っていい、その事実だけで精神的重圧は大分違うのだ。
そして、心に余裕ができたら、激務の中でも見えるものが変わってくる。
それこそ、「この間声をかけてくれたから、内線でヘルプを呼んでもいいかな」と思えたかもしれない。
二個目は「寝ないことが前提で、転倒転落を防ぐことに注力する」考え。
ベッドだから転倒転落のリスクがある。なので、最初から転んだ状態、床に寝た状態で過ごしていただく。
Aさんの場合は「自立での床からの立ち上がり」ができなかったので、とりあえず転ばない。怪我のリスクもない。
同時にAさんの訴え(トイレなど)もきちんと拾えるよう、巡視の回数を増やして対応する。もしかしたら立てるかもしれないし。
そして最後に、家族にも理解していただく。
これは転ばせてしまうことを前提にしているが、万が一の時を考えると効果的だ。
床対応にするにも、家族に報告と了承の獲得はしないといけない。
何も知らないで急に「いつも寝なくて、ついに転んじゃいました」「実は床で寝てるんです」と言われれば、それはどんな家族だって怒るだろう。不信感も生まれる。
前もって伝えておくことで、「そういえば夜寝ないから転ぶかもしれないって言ってたな」「そうなのか、じゃあ床で寝るのも仕方がないか」と家族も心構えができる。
介護の仕事をするうえで、家族との連携は非情に重要な要素になのだ。信頼関係大事。ほんとに。
これは介護士だけでなく、施設に家族を預けている方たちにもわかってほしいな、といつも思っている。